2019 .10.7

LORD MicroStrain社のジャイロ/イナーシャ複合センサは何がスゴイのか?

世界最小クラス! 100円玉サイズに凝縮されたIMU/AHRS/INSセンサユニット

前回は、ケーメックスが取り扱っているLORD MicroStrain社の特殊センサの概要と、4096kHzという超高速サンプリングが可能な無線システムについて触れました。
引き続き、今回も同社ならではの大変ユニークな製品についてご紹介しましょう。

航空機や船舶など、空を飛んだり、航海する乗り物や、自動走行などのモビリティ、あるいは搬送ロボットなどは、いま自分がどこの位置にいるのか、自己位置を正確に把握する必要があります。

そのために使われるのが、たとえば「IMU」(Inertial Measeurement Unit)と呼ばれる慣性計測装置です。IMUは、簡単にいうと3軸の加速度センサと、角速度を計測するジャイロ・センサがまとめられたものです。ちなみに、IMUと構成は同様ですが、ストラップダウンという方法で、重力方向を基準としたロール角とピッチ角を出力する「VG」(Vertical gyro)という装置もあります。

またIMUに、地磁気センサが付けられたものが姿勢方位基準装置「AHRS」(Attitude Heading Reference System)です。AHRSは、ロール角やピッチ角に加えて、方向を示すヨー角を測定できます。

さらにAHRSにGPS(GNSS)を加え、3次元空間の位置と姿勢のすべてを計測できるのが、GPS/INSと呼ばれる装置です。AHRSは、位置を推定できますが、相対的なものなので、誤差が累積されてしまいます。そこでGPSにより情報を補正し、正確な精度で位置を推定するために使われます。

さて、話をLORD MicroStrain社の製品に戻しましょう。実は同社には「3DMシリーズ」というジャイロ/イナーシャ複合センサがあります。この複合センサは、前述のIMU/AHRS/INSの機能がすべて揃ったシリーズで、姿勢、方位、位置などの情報を計測してデータとして出力できます。

私たちケーメックスが、このセンサに注目し、取り扱いを始めた理由の1つは、3DMシリーズの多機能性と、MEMSによって実現した世界最小・最軽量クラスのサイズに惚れ込んだからです。

まず、サイズですが【★写真1】を御覧いただければ一目瞭然でしょう。百円玉サイズで非常に小さいことが分かります。このサイズのケーシングに、クラス最高性能の複数の3軸加速度計、3軸角速度計、磁力計、圧力計、温度計などが詰め込まれています【★写真2】。

【★写真1】3DMシリーズは、標準仕様と量産組込仕様の2タイプがあり、
それぞれにAHRS、IMU/VR、IMUの3種、計6タイプのラインナップを揃えている。

【★写真2】ケーメックスが取り扱う主要なLORD MicroStrain社の製品は、無線センサシステムとIMU。

独自のカルマンフィルタを備え、ノイズや揺らぎを補正

3DMシリーズは、小型・軽量という特徴に加えて、さらに特筆すべき大きなポイントがあります。それは独自のアルゴリズムの「高性能カルマンフィルタ」を備えていることです。技術者の方であれば、カルマンフィルタという言葉を1度はお聞きになったことあるでしょう。これは、センサで計測されたデータに含まれるノイズや揺らぎを取り除くための技術です。

カルマンフィルタ自体は、もう50年以上前に開発された枯れた技術です。実はNASAのアポロ宇宙船に搭載された計算機に、この技術が実装され、宇宙飛行士の航行を助けたのです。いまではナビゲーションシステム、自動操縦、移動ロボット、土木や建築など、非常に幅広い分野でカルマンフィルタが使われるようになりました。

3DMシリーズは、このカルマンフィルタを、独自のアルゴリズムで高性能化し、内蔵のプロセッサで統合的に演算することで、姿勢や方位などの情報を正確かつ高速に出力することができるようになりました。

また、3DMシリーズは運用面でも優れています。専用ドライバ「Inertial drivers」、計測ソフト「MIP Monitor」、キャリブレーション用ソフト「Iron Calibration」や、各種API、サンプルプログラムなども完備しています。これを使えば、導入後にすぐに使えるようになります。

今回、実際に私のほうで3D-GX5-25を使ってみました。まず製品の各種セッティングを行います【★写真3】【★写真4】。データを測定し、PCにビジュアル表示します【★写真5】。飛行機の3Dモデルで測定値をシミュレーションすることも可能です【★写真6】。

【★写真3】3D-GX5-25のデモ。初期セッティング画面からコンフィグレーションを行います。

【★写真4】次にAHRS IMUの設定、サンプリングレートなどを設定します。

【★写真5】センサから計測された3chの各ノードのデータ(ロール、ピッチ、ヨー)の値が時系列のグラフで表示されます。

【★写真6】飛行機の3Dモデルでシミュレーションした場合です。
ロール、ピッチ、ヨーの値が反映されて、飛行機の姿勢が分かります。

最後に、3DMシリーズのラインアップについてご紹介しましょう。標準仕様の高性能センサとして「GX5」と、量産組込仕様の産業グレードセンサとして「CV5」があります。それぞれに、前半でご説明した「GNSS/INS」「AHRS」「IMU/VR」の機能を備えた3タイプを用意しており、ニーズにマッチした製品をチョイスすることができます。

このほかに「CX」(量産組込高性能センサ)、MV5-AR(IP69K、J1939 出力)、GQ/RQ(Milスペック)も用意しています。 パッケージも堅牢なMil(米軍規格)対応から、産業組込用の簡素仕様まで、フルラインナップで揃え、 航空宇宙から一般産業まで幅広い実績を誇っています。

また個々の製品は、独自のキャリブレーションによって、全品を精密にチェックしており、量産生産も可能です。ご興味のある方は、ぜひ弊社の担当までご連絡ください。