2019 .4.2

「2018 Moxa Industrial IoT Solution Day」開催レポート(その3)

IIoTに求められるITとOTの統合と、IIoTゲートウェイの役割

こんにちは。昨年、東京と大阪で開催された「2018 Moxa Industrial IoT Solution Day」について、今回も報告したいと思います。このイベントでは、Moxa本社のスペシャリストたちが来日し、同社の製品を活用した素晴らしい事例を紹介しました。

前々回:「2018 Moxa Industrial IoT Solution Day」開催レポート(その1)
前回:「2018 Moxa Industrial IoT Solution Day」開催レポート(その2)

さて3人目の登壇者は、Moxa Inc のセールスマネージャー、張彝懋(Jacky Chang)氏【★写真1】です。同氏は「OTとITの統合に役に立つゲートウェイの運用方法」をテーマに講演を行いました。

【★写真1】Moxa Inc.Senior Sales Manager 張彝懋(Jacky Chang)氏

当然のことですが、IIoTには「ITとOTの統合」が求められます。統合により、クラウド側のITで、OTで提供されるデータを分析し、現場の運用効率を高めたり、新しいビジネスモデルを創出するチャンスが生まれるのです。このときOTとITの橋渡しを行うIIoTゲートウェイは、データの収集、転送、フィルタリング、ローカルインテリジェンスを提供する重要なコンポーネントといえるものです。

張氏は「IIoTにはITとOTの統合が大切なのですが、実はいろいろなハードルがあります。まずIT部門とOT現場における組織の壁があります。しかし、それだけでありません。技術やスキルの壁も存在します」と説明しました。

たとえば、OT現場では生産工程や装置保守を担当するエンジニアが、各社のデバイスやリモートIOの制御を担当しています。扱うプロトコルは、Ethernet/IPやPROFINET、Modbusといったものが中心です。一方のIT部門は、MES(Manufacturing Execution System)やソフトウェア開発のスキルが中心で、エンジニアもC#やPythonといったプログラミング言語や、Webシステムを連携させるAPIの知識が求められます。プロトコルもIoTに適したMQTTなどが利用されます【★写真2】。

【★写真2】IT部門とOT現場では、技術やスキルの壁も存在する。
OT側では各社のデバイスやリモートIOの制御を担当。
IT部門は、MESやソフトウェア開発のスキルが求められる。ネットワークのプロトコルも異なる。

「ITとOTでは担当者に必要な知識やノウハウも違っています。そこで、こういったギャップを埋めるために、IIoTゲートウェイが大きな力を発揮するのです」(張氏)。

では、IIoTゲートウェイの役割とは、具体的にどのようなものでしょうか? 同氏は、以下の3つの項目を挙げました【★写真3】。

・フィールドバス対応デバイスとの接続
・組み込み型のローカルインテリジェンスによるデータの前処理と分析
・クラウドや他システムへの連携

【★写真3】ITとOTのギャップを埋め、その橋渡しをするIIoTゲートウェイ。その具体的な役割は主に
「フィールドバスの接続」「ローカルインテリジェンス」「クラウドへの連携」の3つ。

IIoTゲートウェイの事例~米国における大規模分散型住宅用太陽光発電システム

次に、張氏はMOXAのインテリジェントIIoTゲートウェイの事例を紹介しました。これは米国の大規模分散型住宅用太陽光発電システムで活用されたものです。米国のエネルギー事業者は、住宅用の太陽光発電システムを構築し、定期的な収益を確保しようとしました。ビジネスモデルは「PPA」(Power Purchase Agreement)と呼ばれる買電契約です。

ご存じのとおり、日本でも同様のことが行われていますが、太陽光発電会社がPPAをベースに、太陽光発電パネルを住宅の屋上に設置し、家主は合意した発電料金に基づいて、月額の料金を支払いを行います。ただし余剰で発生しれた電力については、電力会社に伝送し、それが利益として還元されます。

「今回のエネルギー事業者は、5万件の住宅と契約を結んでいました。信頼性の低い接続によって生じるデータの不正確性と、大規模な分散式設備のメンテンナンスの難しさに対して、課題を抱えていました」と、張氏は同社が抱えていた課題について説明しました。

まずデータの不正確性の解決ですが、同社はデータをデバイスから収集し、その転送に家庭用Wi-Fi経由のWANを使用することで、通信料金を削減しようとしていました。ただし、家庭用Wi-Fiだけでは不安がありました。

「そこで同社は、新しいネットワーク通信のフェイルオーバーメカニズムを採用しました。メインのWi-Fiのほかに、第二伝送経路としてセルラーによる通信を確保しようと考えたのです」(張氏)。

ただし、もう1つの課題が残りました。5万件もの大規模な分散式設備のメンテンナンスに関しては、何か故障があった場合にWi-Fiからセルラー経由で通信を行えても、やはり現場にサービス要員が赴く必要がありました。つまり人的な動員は変わらなかったわけです。

「そこで、MOXAのインテリジェントIIoTゲートウェイを導入することで、Webベースでデバイスのリモート監視を行い、何かあったときに遠隔で設定を変更したり、復旧することで、大幅に管理コストを抑えられるようにしたのです」(張氏)

この大規模な分散型住宅用太陽光発電システムの概要は次のとおりです【★写真4】。

【★写真4】米国における大規模な分散型住宅用太陽光発電システム。
MOXAのインテリジェントIIoTゲートウェイを導入することで、
リモートの監視と設定が行えるようになり、メンテナンスの管理コストを低減できた。

MOXAのIIoTゲートウェイによって、太陽エネルギーの生産・消費データを、Modbusデバイスのバッテリやインバータから収集します。次に、WiFiとセルラーで冗長化されたネットワーク経由で、通信の正確性と確実性を確保し、データをクラウド経由でIT側に伝送します。これらの情報をITダッシュボードで統合・可視化し、課金の計算を行います。もちろん多数のIIoTゲートウェイを一括してリモートで管理することが可能になりました。

複雑な大規模システムに対して、最適なIIoTゲートウェイを選定するポイント

張氏は、こういった複雑で大規模なシステムに求められる適切なIIoTゲートウェイのポイントについて説明しました。同氏は「まず、IIoTゲートウェイの開発から、導入、運用、メンテナンスまで、一貫したライフサイクルを配慮することが重要です」と力説しました【★写真5】。

★写真5】MOXAのIIoTゲートウェイは、開発から、導入、運用、メンテナンスまで、
一貫したライフサイクルを配慮した設計になっている。

たとえば導入時を見てみましょう。従来のIIoTゲートウェイは手作業で、機器を個別に設定するため、手間がかかり、エラーも発生しやすかったのです。

「しかし、MOXAのIIoTゲートウェイは専用ツールを使用し、ネットワークにつながった全ゲートウェイをスキャニングして登録できます。各ゲートウェイの共通設定を一括でインポートし、ワンクリックでIPアドレスの設定・配布できる点も便利です」(張氏)【★写真6】。

【★写真6】CAPインテリジェントIIoTゲートウェイにより、導入時の設定を容易に行える。Device Enablementツールを利用し、全ゲートウェイをスキャンして接続し、共通設定をインポートできる。

また運用時には、MS AzureやAWSのClient SDKによって、簡単な設定だけでクラウドに接続することも可能です。通信時に最も重要なことはセキュリティですが、MOXAのIIoTゲートウェイは、データとAPIの両面から安全な通信を実現しています【★写真7】。

【★写真7】運用時のセキュリティについても、MOXAのインテリジェントIIoTゲートウェイなら安心。
専用セキュリティチップ(TPM2.0)と、データとAPIトークンによって安全な通信を実現している。

「MOXAのIIoTゲートウェイは、機密データの暗号化を専用セキュリティチップ(TPM2.0)で実現しています。またAPIトークンによって、安全なセキュアなアプリケーションを開発でき、認証済トークンがなければアクセスできない仕組みです。データ通信についても、MQTT SSL対応やOpenVPNに対応し、セキュアなアクセスが可能です」(張氏)。

メンテナンスのことも重要です。従来の場合は、システム変更やデバイスの入替え、ファームウェアの更新、アプリケーションの追加やアップグレードなどを行うことは非常に大変でした。特に今回のような太陽光発電システムは、システムが大規模で分散しているため本当に大変な作業になってしまいます。

「そこでMOXAは、集中型デバイス管理プラットフォーム“ThingsPro Server”と、エッジコンピューティングソフト“ThingsPro Gateway”を提供しています。これらを利用すれば、各ゲートウェイの状況をリモートで把握できます。またデバイス・マネジメントは個別管理だけでなく、グループ管理にも対応し、マップビュー機能も備えています」(張氏)【★写真8】【★写真9】。

【★写真8】集中型デバイス管理プラットフォーム「ThingsPro Server」と、エッジコンピューティングソフト「ThingsPro Gateway」でIIoTゲートウェイを用意。

【★写真9】リモートで実現できるデバイス・マネジメントの機能。ゲートウェイは個別の管理だけでなくグループ管理にも対応し、導入後のメンテナンス費用も抑えられる。

最後に張氏は「MOXAは長期のサポート体制を持っています。我々の製品に組み込まれているLinuxは、リリース後も10年間以上のサポートを実施し、機能アップやセキュリティ・パッチなどを提供しています。ぜひIIoTゲートウェイをご検討の際には、MOXA製品を御用命ください」と、同社のサポートの面倒見の良さもアピールしていました。